「フィジカルが全てじゃない」——20歳の左腕が教えてくれた、テニス上達の本質
所長この記事を書いている著者は・・
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なぜ今、ラーナー・ティエンなのか


「現代テニスはフィジカルゲームだ」と思っていた時期が、私にも長くありました。
プロの試合を見るたびに、200km/hを超えるサーブ、弾丸のようなフォアハンド、180cm超えの長身が当たり前のように目に入る。「まあ、あのレベルは別世界の話だよな」と、どこかで線を引いていたんですよね。
ところが2025年の全豪オープンで、そのイメージをまるごとひっくり返してくれた選手が現れました。ラーナー・ティエン。20歳のアメリカ人左腕です。
派手さはない。圧倒的なパワーがあるわけでもない。でも画面から目が離せないんです。「なぜか相手が崩れていく」という不思議な感覚に引き込まれる。メドベージェフを圧倒してクォーターファイナルに進出したその試合を見ながら、私はずっとこう考えていました。「これって、私たちアマチュアが一番学べる選手じゃないか」と。
今回はティエンのフォアハンド、バックハンド、そしてフットワークと戦術を海外テニスメディアの分析を参考にしながら掘り下げていきます。技術的な話だけでなく、「自分のテニスにどう活かすか」という視点で読んでもらえると、より面白いと思います。
「基本技術の完成度」が最強の武器になる理由


海外の解説チャンネルがティエンを語るときに繰り返し使う言葉があります。「基本技術の完成度」です。
ATPランキング上位30位以内の選手の中でも、ティエンは最も身長の低いグループに入ります。それでもズベレフ、メドベージェフ、ルブレフといったトップ10クラスから白星を挙げ、19歳の誕生日までに3つのチャレンジャータイトルを獲得、年終ランキングはトップ30以内。コーチにマイケル・チャンを迎え、「コート外での過ごし方まで全部見てくれる」と本人が語るほど、丁寧に積み上げてきたキャリアです。
ここで「でも、最終的にはサーブやフォアのパワーが壁になるんじゃ?」と感じた方、いませんか。それ、実はアマチュアが陥りがちな思い込みと全く同じ構造なんですよね。
「もっと強く打てたら」と練習するたびにミスが増えて、自信を失っていくサイクル。ティエンが体現しているのはその逆で、精度の高いラリーを続ける能力こそがポイント獲得の本質だということです。「速く強く打つ」より「相手が嫌なことを続ける」という発想の転換——これはパワーが限られているアマチュアにとって、むしろ最も再現性の高いアプローチだと思っています。
フォアハンド:腕で打っていませんか?


全豪オープンでのフォアハンドウィナー63本。「攻めていないように見える」と言われる彼のプレーの中に、実はこれだけの威力が隠されています。海外メディアは「きれいなヒッティング、完璧なプレースメント、優れたタイミング」と評し、不利な体勢や低い打点からでも正確に打ち切れる点を特筆しています。
技術的な分析を見ていくと、レディポジションから始まるアスリートポジションの精度、現代ATPスタイルに必要な「アームスペース」の確保、そして何より目を引くのが体の回転量です。フォロースルーでは腰が打球方向と逆を向くほどの大きな回転が見られ、これが安定したパワーの源になっていると複数の分析者が指摘しています。
ここで正直に聞かせてください。フォアハンドを打った後、皆さんの腰はどこを向いていますか?


多くのアマチュアはインパクトの瞬間に体の回転が止まり、あとは腕だけでフォロースルーしています。「腕だけで打っている感じがする」という悩みの正体は、だいたいここにあります。グリップの問題でも、テイクバックの問題でもなく、回転が足りていない。
素振りでいいので、「打った後に腰をどこまで回転させられるか」だけを意識してみてください。ボールのことはいったん忘れて、まず回転の感覚を体に染み込ませる。それだけで変化を感じられるはずです。
バックハンド:面の向きという見落とし


バックハンドウィナー37本。クロスコートへの低い弾道は相手が攻略しにくく、「コンパクトで盤石、ほとんどミスをしない」という評価が海外メディアで共通しています。かつてのジミー・コナーズとの類似性を指摘する声もあり、昨年と比べてより大きく振り切るようになったことで積極性が増したとも言われています。
一方で、技術的な視点からはラケットをドロップさせる際に面が開きすぎているという指摘もあります。トップスピンを効率よくかけるには、ドロップ時にラケット面が閉じた状態が理想で、ジョコビッチのバックハンドがその見本として紹介されています。ティエンの場合は面が開いた状態から前腕を転がして合わせる動きで対応しており、「プレッシャー下でのリスクが高まる可能性がある」と指摘されています。
私自身も両手バックハンドを使っているので、この面の問題には長く苦労しました。トップスピンをかけようとして力んでしまい、かえってスライスのような軌道になってしまった経験、皆さんにもないでしょうか。


感覚的に言うと、「ボールを包み込むように打つ」より「面を閉じてボールの下から拭き上げる」イメージの方が近い。最初からラケット面が閉じた状態でスイングを始めると、低いところから高いところへ振り上げるだけで自然にトップスピンがかかります。壁打ちやゆっくりのフィードボールで、まずドロップ時の面の向きだけを意識してみてください。
フットワークと戦術:「速さ」より「先読み」


海外メディアが「最も過小評価されている要素」として挙げるのが、ティエンのフットワークです。
「常にベストポジションに自分を置ける」という能力は、見ていると非常に自然に見えるため気づきにくい。でも実際には、高度な予測力と移動効率の組み合わせです。4球以上のラリーになるとズベレフに対しても優位に立つことが多かったというデータは、この「ポジショニング」の精度を示しています。
アマチュアの試合でよく見かけるのは、ボールが来てから動き始めるパターン。これだとどうしても後手に回ります。「打ってから次のポジションを取る」という順番を意識するだけで、ラリー中の安定感はかなり変わります。
戦術面では、2025年全豪オープンでドロップショットを前年比17本多く使用しています。「決め球」としてではなく「相手のポジションを変える球」として使っているのが重要で、深いボールと短いボールを組み合わせることで相手の予測を難しくする。「1000カットで切り刻む」という表現で戦術を評する声もあるほど、緻密なゲームメイクです。
アマチュアのダブルスでも、この「深さの変化」を意識するだけでラリーの主導権がかなり変わりますよ。
今週、一つだけ試してほしいこと


ティエンから学べることをまとめると、フォアハンドでは腰の回転量、バックハンドではドロップ時のラケット面の向き、ラリー全体では「打ち負かそうとする」より「相手を動かし続ける」発想です。
ただ、これを全部同時にやろうとすると混乱しますよね。だから今週は一つだけ選んでください。個人的なお勧めは「フォアハンドのフォロースルー後の腰の向き」の確認です。素振りで確認できて、スマホで動画も撮りやすい。変化を客観的に見られるので、達成感も得やすい。
ティエンはまだ20歳で、サーブの安定性やクレーコートでの課題など、本人もチームも改善中です。完成形ではなく発展途上だからこそ、追い続ける意味がある選手だと思っています。

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